©板垣巴留(秋田書店)/BEASTARS製作委員会
国内有数のセルルック調アニメーション制作会社であり、近年では『宝石の国』や『BEASTARS』を手掛ける有限会社オレンジ、業務効率化のためにSHOTGRIDを導入している。2年5ヶ月で合計4800カットを制作した大規模プロジェクトである『BEASTARS』での事例をもとに、SHOTGRIDの具体的な活用事例を訊いた。
ー自己紹介をお願いします。
有限会社オレンジ 管理部の池田です。前職は劇場アニメ制作等を手掛ける会社でラインプロデューサーをやっており、2019年にオレンジに入社しました。オレンジはセルルック調3DCGアニメーションをハイクオリティで作ることを得意としており、作画よりもさらに高品質であることをモットーにしたアニメーション会社で、現在はアニメーター、モデラー、エフェクトが100名、他制作、管理が20名と合計120名ほどが在籍しています。
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有限会社オレンジ
管理部部長
SynergySP、スタジオ地図で制作、ラインプロデューサーなどを担当し2019年に入社しました。 オレンジでは、システム管理・社内のリソース管理をはじめ、スタジオ全体の管理業務を担当しています。
ーオレンジ社内での業務内容について教えて下さい。
オレンジでは各種システムのデジタル化を手掛けたほか、使用するPC選定やライセンス管理、サーバー周りを含めた社内インフラ整備などを行っており、現在はSHOTGRIDの管理・開発も行っています。もともとオレンジはモーションキャプチャやフェイシャルキャプチャなどの新しい技術を早くから取り入れており、テクノロジーを用いて効率化を図りながら浮いた時間で作品クオリティを高めていくという方針があります。
ーその中のひとつに、SHOTGRIDがあったということでしょうか。SHOTGRIDはいつ頃から導入をしていましたか?
『宝石の国』制作時から導入はしておりましたが、当時はSHOTGRID上で全てを完結するのではなく、あくまでムービーのアップロードを行うデータベースとしての運用でした。その後の作品でもタスク管理等は行っておりましたが、近作である『BEASTARS』1,2期ではより高度な運用を行い始めました。本作はちょうど私が入社した後の制作でしたので、積極的にワークフローの改善をさせて頂きました。
ー段階的に導入が進んでいったというかたちですね。
そうです。SHOTGRIDは私の入社前から制作管理ツールとして使用されていましたが、他ツールの併用も多く、完全な移行はできておりませんでした。『BEASTARS』は2018年10月から2021年2月の間に24話ぶん4800カットを制作する必要があり、こうした大規模な制作にあたっては業務効率の改善は必須でした。現在の運用もすべてがSHOTGRID上というわけではありませんが、ワークフロー改善によってクオリティの高いアニメーション作品を期間内に制作することができるようになってきました。
ー制作工程のどういった部分を、どのような流れで改善したのでしょうか。
実作業を行うアニメーターにヒアリングを行い、、業務内容をテキスト化したのち、自動化できる部分を現場で一緒に決めて行きました。「そこは人間がやらなくても良いだろう」という部分を協議しながら自動化していったという流れです。例えば、チェック用データのアップロードは、従来まではSHOTGRIDをブラウザ上に立ち上げて、指定のプロジェクトとカットまで移動してバージョンをアップロードするところまでを手動で行っていました。また、人によってはデータをSHOTGRIDに上げず、ファイルを直接ディレクターに送ってしまう場合もありました。これは当人の責任ではなく「この運用では手間の方が増えてしまい、利便性を感じられない」という運用側の問題です。これを解決するために、データアップロード用のツールを制作し、ドラッグ&ドロップでSHOTGRIDの指定されたバージョンにアップロードが出来るように改善しました。従来ではチェックムービーをブラウザ経由でアップロードする際、目的のショットに辿り着くまでに1分半ほど掛かっていましたが、ツールを導入したことで10秒ほどで完了するようになりました。
©板垣巴留(秋田書店)/BEASTARS製作委員会
ーもともとは動画ファイル用サーバーとして運用していたが、アップロードの手間が「むしろ効率化から遠ざかっていた」ということですね。そこでアップロード用のツールを作られたと。ご自身で開発されたのですか?
はい。実は私はこれまでプログラムとは無縁でした。オレンジにはエンジニアの方も在籍していますが、3dsMAX周りの開発をずっとされていましたので、SHOTGRIDのツール開発を進めるにあたって入社後にゼロからPythonを学んだんです。最初の3ヶ月は右も左も分からない状態でしたが、SHOTGRIDのAPIが充分な機能を有していたため、リファレンスを参照しながら目的のツールを開発することができました。また、別の者が担当しましたが、SHOTGRIDサイト上から複数カットにまとめて、チェックバックを記入できるようにするAMIも開発しています。
ーオレンジではメインのDCCツールに3ds MAXを採用していますが、この理由を教えて下さい。
3ds MAXの利点は色々ありますが、弊社ではPencil+が使えることが理由のひとつになっています。また、プラグインを導入することでさまざまな場面に対応でき、作りながら試行錯誤できるところも小回りが利いているように感じますので、アニメーション制作の現場では有効なツールだと考えています。
ー改めて、ご自身で開発されたツールを踏まえて、『BEASTARS』でのSHOTGRIDワークフローを教えて下さい。
各種素材をローカルサーバー上にアップロードした後は自動的にSHOTGRID側のステータスが変わり、社内連絡用のSlackに通知が飛ぶように設定しています。テキストで済むようなチェックバックはSlackで行うこともありますが、動画チェックはSHOTGRID側で赤入れを行います。全てを一律にSHOTGRIDに統合するのではなく、これまでのワークフローにSHOTGRIDをアドオンするようなイメージです。コミュニケーションはSlackで、集計などはSpreadsheetなども併用しつつ、データの橋渡しや蓄積をSHOTGRIDが担っています。結果として、データの上げ忘れやステータスの変更忘れなどのヒューマンエラーがなくなったほか、「アップロードしたのに制作進行に連絡ができていなかった」などのコミュニケーションロスもなくなりました。そして、もうひとつのメリットは、社内のファイル管理のリテラシーが大きく向上した点です。
ーそれは、ファイル管理への意識が向上したということでしょうか。
スクリプトが走っている以上、データ形式やファイルの命名規則も事前にしっかりと決めておく必要があります。結果的には、このことが「最初に全てのファイルの流れをルール化しておく」ということに繋がっていきました。データがしっかりと管理できていることで、例えば他社と協業する際などのトラブルも大きく減少しました。最初は大変だったのかも知れませんが、現場のヒアリングをもとに開発した成果か全員がしっかりと周知した内容で慣れていただいて、副次的に意識もいい方向に変化したのかなと思っています。
ー副次的とはいえ、非常にいい効果を生んでいると感じます。最後に、今後のSHOTGRID運用方針や、挑戦したいことについて教えて下さい。
『BEASTARS』で実現できなかったのは棒つなぎですが、現在は全てのカットを並べてカットボールドがない状態で再生するといった仕組みは完成しており、現在制作中のプロジェクトでもワークフローに取り入れております。バージョンのアップロードをイベントデーモンが検知して尺を計算し、カットアイテムに代入するという仕組みですね。また、これをさらに発展させれば、例えばEDLを読み込んでカッティング時のムービーを最新バージョンに差し替えるといったことも出来るようになると思います。これらのプレビュー周りをSHOTGRID上で自動化できれば、さらなる効率化につながると考えます。
ーありがとうございました。
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